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エサをねだる観光キツネも多い
キタキツネ

Vulpes vulpes schrencki
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 キタキツネはホンドギツネとともに北半球に分布するアカギツネの亜種にあたる。ホンドギツネは夜の林道などで偶然見かけたことが数回ある程度だが、キタキツネは北海道に行けば珍しくもない。特に車道でエサをくれる観光客を待つような「観光キツネ」も結構いる。観光客の方もこういうキツネに喜んで、スナック菓子などを与えるから、余計にこうした歪んだ行動に出るキツネが増えることになる。こうようなエサやり行為は、エサを期待させることで本来の生態を乱すだけでなく、車道で事故に遭うなど、長い目でみればキツネたちにとっても何のメリットもない。
 
先日、テレビでキタキツネに手からエサをやって、ちょっと噛まれたらしく「イタタ…」と手をひっこめる観光客の姿を見た。野生動物にエサを与えるのは好ましくないことを知らないばかりか、キタキツネはエキノコックスと呼ばれる恐ろしい寄生虫をもっている場合があり、直に接触すれば、その寄生虫に感染するおそれがあることも知らないようだ。道内でも都市部とそうでない場所とでは、その危険性に対する認識もかなり違いがあると私は感じているが、これが道外からの観光客ならなおのことだろう。エキノコッコスに感染すると、十数年程度の潜伏期間を経て、肝機能に障害が現れはじめる。しかし症状が出た時には手遅れであることも多いという恐ろしい病気。つくづく感じるのは、無知は怖いということだ。本人は自分が命を脅かすリスクにさらされていることすら気づいてもいないのだから。



子ギツネ(上・下2点とも)。北海道奈井江町にて





日高連峰の林道にて(上・下2点とも)。この個体は、車を見て逃げることもなかったが、エサを求めて近づいてくることもしなかった。まだ一部に冬毛が残っている。





私の車に気づくやいなや、恐れもせずに近づいてくるキタキツネの親。近くに子ギツネがいたので、親としてエサを確保する必要に迫られているのだろうが、あまりに平気で車のすぐ側まで寄ってくる。今回、北海道を久しぶりにまわって、こうした「観光キツネ」は、確かにいたが、「以前よりも増えた」という印象ももたなかった。車を見て、慌てて逃げる個体も割といた。


幌延町付近、農場わきの道路に座るキタキツネ




下4点は、いずれもエサ目当ての「観光キツネ」。左上は雨竜沼湿原登山口に続く車道に現れたキタキツネ。やせ細った姿から、観光客の与えるエサに依存しすぎてしまって正常なエサの採り方を忘れているのではないかと懸念した。左下と同様、「観光キツネ」は平気で車にも近づいてくる。左上以外の3点は大雪山系・銀泉台にて撮影。




 
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