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御嶽山で出会ったライチョウのつがい
ライチョウ(T)
Lagopus muta japonica
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 ある年の5月、登山者の姿も皆無の木曽御嶽山へ登ったことがあった。王滝頂上が近づく頃、息を切らせながら雪面を登っていると、ライチョウが現れ手が届きそうな位置まで近づいてきた。白一色の景観に退屈していたので、思わぬ出迎えに心もなごんだ。「ク、ク、ク…」と小さく鳴きながら、雪から出た草などをついばむばかりで、私の存在など、たいして気にもしていない様子。警戒もしていなければ、カメラのシャッター音にも動じない。最初に現れたのはメスだったが、すぐにあとからオスもやってきた。メスはいづれ産卵の季節に備えて栄養が必要というわけなのだろうか。エサ探しに夢中だった。しかし、オスの方は草をついばむでもなく、メスが移動すれば自分も移動し、常に寄り添っている感じでほほえましかった。
 ひとしきり、私の周囲でエサをついばんだメスは、オスをほっといて次のエサ場に向けてさっさと移動。まわりを警戒していたオスはそれに気づくと慌てて後を追う。人間にも、こういうカップルがいそうで、ライチョウの後ろ姿を見送りながら、ひとり笑ってしまった。だが、個体差もあるかもしれないが、動物は基本的にはそうなのかもしれない。メスがエサに夢中なのはわがままだからではない。先にもいったように産卵に備えて栄養を蓄える必要があるからで、本当にわがままな場合も多い人間と一緒にするのは、実はライチョウに対し失礼千万なのである。

関連情報→本サイト動物記「ライチョウ(U)



エサ探しに夢中だったメス(左)とメスの側を離れないオス(中)。エサがないと悟ると、オスをほっといて、さっさと次のエサ場に向かうメス。慌てて後を追うオス(右)。撮影は1988年5月。



北アルプス・唐松岳で出会ったライチョウ(♀)。2羽のヒナを連れて現れ、近くに私も含めて何人もの登山者がいたにも関わらず、まったく気にせずに登山道でヒナに砂浴びをさせていた。撮影は1988年8月。


 
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