ネット記事を読んでいたら、経済評論家の大前研一氏が「日本の自動車市場は、世界で類を見ない状況になっている」として、次のような意見を述べられていました。

 (記事前半省略)
 車種は普段使う息子や娘が選ぶが、購入資金を出す父親も時々運転するという、先進国でも日本だけの現象が起きたのである。その最初の10年ぐらいは、未舗装路のない日本では全く不要で街乗りに不向きな4輪駆動のSUV(スポーツ用多目的車)が売れていた。合理的に見ると最も理解に苦しむ車種選びで、日本人は判断を誤っていたとしか思えないが、意思決定者が複数だとそういう結果になってしまうのだ。
 その行き着いた先がワンボックスカーである。家族で旅行や帰省をする時に5人乗りのセダンでは少々窮屈ということで、ゴールデンウィークや年末年始など年に数回の家族全員利用に合わせて7〜8人乗りのワンボックスカーを選択し、大半の時は1人で乗っているという、これまた非合理的な判断をしているわけだ。かくして日本の道路は、不格好で非経済的なワンボックスカーがあふれるという世界でも類を見ない珍奇な状況になったのである。
 そして今は軽自動車ブームである。家族それぞれが通勤や買い物などの日常利用に合わせて最適化すると、みんな維持費が安くて駐車スペースが小さくてすむ軽自動車を選ぶ。だから車が生活必需品の地方では、家族全員が軽自動車を保有する時代になり、一家に軽4台というケースも珍しくなくなっているのだ。



 経済評論家という職業の方が、必ずしも的確で緻密な分析ができるわけではないというのは、時々感じることですが、大前氏の意見は相当に的外れといわざるを得ません。「不格好で非経済的なワンボックスカー(しかも四輪駆動車)」のオーナーだから反論するわけではありませんが、四輪駆動車は未舗装路だけでなく、雪道でも有効です。どちらも絶対に必要とまではいいませんが、状況次第では極めて有効ですし、かつ保険的な意味もあります。しかも「日本に未舗装路がない」というのも認識不足と言わざるを得ません。

 日本国内において、確かに普段の生活圏では、ほぼ100パーセント舗装道路であると断言できますが、私と同じように登山をされる方であれば、登山口に続くアクセス道路が未舗装林道の可能性もあることをよくご存じだろうと思います。つまり、雪国で暮らす人はもちろん、登山、山菜採り、渓流釣り、スキーやスノーボードといったアウトドア系の趣味をもつ人、あるいは林業従事者や山小屋関係者などであれば、悪路・雪道対策として四輪駆動車を選ぶのは、実に合理的な判断です。なぜなら、そういう現場へ二輪駆動車で乗り込み、万一スタック(タイヤが空回りして身動きできないこと)すると非常にやっかいですが、四輪駆動車であればそういう事態に陥りにくい、もしくは仮に陥っても抜け出す能力が高いからです。それとも、より価格が安い二輪駆動車を選んでおいて、スタックする度にJAFを呼ぶ方が合理的とでもおっしゃるのでしょうか。

 以上のような利用環境、特に雪道対策という意味では日本という国土にあって決してレアケースではありません。レアケースではないからメーカーも四輪駆動車を作っているし、売れているのです。
 また後半の意見も私には意味がよくわかりませんね。まるで大型のワンボックスカー1台よりも複数の軽自動車を保有する方が効率的とでもいわんばかりですが、都内はもちろん、地方でも何台も車を置けるほどの土地を所有している人はそれほど多くないはずです。
 自宅敷地に置けない時は別途、月極駐車場を契約して、毎月金を払って置けばいい? そうやってでも軽自動車を複数台所有する方が、ワンボックスカー1台よりも経済的である? 6人家族でドライブに行く時、軽2台に分乗して楽しいわけ? しかもその時に行き先変更や休憩のタイミングなど、いちいち携帯で連絡しあうわけ?
 経済性よりも家族のふれあいを重視する人にとっては別に不思議な選択ではなく、それに他人がとやかくいうのは余計なお世話です。実に「世界でも類を見ない珍奇な」意見としかいえません。

 ところで、以前、大前氏と同じような、でも真逆の意見をネット上で読んだこともあります。雪国の人が、東京都内で四輪駆動車が多いのを見て「雪が降らないのに、なんで四輪駆動車に乗るんだよ」と都民をバカにされていました。その人の頭の中では四輪駆動車とは雪道のためという認識しかなかったようですが、これは車に詳しい詳しくないという話ではなく、単に想像力があるかないか、という話です。少し想像力を働かせれば、未舗装悪路以外に都内でも次のような状況があり得ることに思いが至るはずです。

@23区内で積雪があるのは年に数度あるかないかくらいだが、積雪があると、やはり雪道の運転には慣れていないこともあって、四輪駆動車の方がより安心できる。また同じ都内でも奥多摩町や檜原村のような西部山間地では、それなりに積雪がある。

A雪は降らなくても、道路が凍結する恐れはある。以前、多摩地方にお住まいの仕事関係の知人が、四輪駆動車に買い換えた。それは自宅の近所に、冬は凍結して二輪駆動車ではスリップして上がれない坂道があるからというのが理由だった。四輪駆動車にして以後、問題なく上がれるようになったそうだ。

B雪国出身で雪道対策として四輪駆動車を購入したが、その後東京に転勤になったので、ナンバープレートだけ交換してそのまま乗っている。

C都内に居住しているが雪国出身なので年末年始には車で帰省している。雪道では、やはり四輪駆動車の方が安心できるから。

D都内に居住しているが、ウィンタースポーツが趣味なので、冬期の休日にはよく雪国に遊びに行くから。


 以上のことは、ごく普通に身近でもあり得る話でしょう。これを考えれば、想像力が足らないという以外に理由はありません。 
 ちなみに私が所有している車は、二輪駆動と四輪駆動が選択できるようになっています。素人考えでは二輪駆動の方が燃費がよさそうにも思うのですが、メーカーにいわせるとほとんど違いはなく、むしろ普段も四輪駆動を選択する方が走行も安定するのでお勧めとのことでした。降雨時の濡れた路面でもスリップしにくいこともあるようです。
 
 

Nature
これって正しい?

未舗装路がない日本では、四輪駆動車は非合理的だ

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第21話