オオカミは、先回りしておばあさんを食べてしまってから、おばあさんになりすましました。そうとは知らない赤ずきんちゃんは、おばあさんの家にやってきます。そして、おばあさんの耳や口が異常に大きくなり、声も変わっていることを不思議に思って尋ねました。

 つまり、赤ずきんちゃんは、オオカミがなりすましていることにまったく気づかなかったわけですが、いくら子供とはいえ、おばあさんとオオカミほど違うものを区別できないとは、よほどの近眼なのか、思い込みが激しすぎるのか、それとも心理学でいう「ゲシュタルト崩壊」を起こしやすいのか、そのいずれかに該当するとしか思えません(ゲシュタルト崩壊の意味を知らない人は、検索して調べて下さい)。

 オオカミは、赤ずきんちゃんもペロリと食べて寝てしまいましたが、あとからやってきた猟師によって腹が切り裂かれて、二人は助け出されました。
 でも、これは生物学的にはあり得ません。オオカミは、ヘビのように獲物を丸のみできないからです。ヘビが自分の頭よりも大きな獲物を丸のみできるのは、下アゴが外れて口周囲の筋肉がのびるからですが、オオカミにそんな機能は備わっていません。従って、獲物は小分けにしながら食べることになり、仮に猟師が腹を割いても、すでにバラバラの肉片となって、消化されかけているのは間違いないでしょう。
 もちろん、そんなこといってたらオオカミがおばあさんになりすますことも、人間の言葉をしゃべることだってあり得ないことになりますけどね。

 しかし、それにしてもオオカミの行動は意味不明です。オオカミは、おばあさんの家へ行く前、森で赤ずきんちゃんに出会っているのです。どうして、この時に食べなかったのでしょうか。ここで食べちゃえば、おばあさんになりすますような、めんどうなことをしなくてすんだのに。まったくもって場当たり的な行動しかできないバカな奴です。そんなことだから最後は猟師に見つかって腹を割かれちゃったんですよ。

 ところで童話「赤ずきん」の教訓は、「悪い人が優しい言葉で近寄ってくることもあるので気を付けなければならない」ということではなく、「子供のお使いにはさまざまなリスクがあるので、決して行ってはならない」ということです(笑)。えぇ、絶対そうに違いありません。よい子のみなさんは、パパやママからお使いに行くようにいわれたら、「赤ずきんちゃんみたいな危険に遭遇するリスクがあるから絶対に行かない」といって断固拒否しましょう。肝心なのは「リスク」という言葉を、いざという時に使えるようにしっかり覚えておくことです。ラスク? いいえ違います。それはパンで作る焼き菓子のことです。ラスクっていったら、パパやママに爆笑されて終わりですよ。
 一方、親御さんの方も、そういわれた時にどう切り返すか、考えておきましょう。例えば、「うちの近所にはオオカミはいない」、「お友達と遊ぶのもリスクがあって行けないことになるけど、それでもいいの?」…とかね。いくらでも切り返せますから、ご安心を。


 
 

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第18話

赤ずきん考