カシューナッツといえば、勾玉のような形をした、おいしいナッツですよね。カシューナットノキという樹木の種子なんですけど、その果実がどんな形をしているか、ご存じでしょうか。アップにした写真がなかったので、ちょっとわかりにくいですが、写真のパイナップルの下に写っている赤や橙色の果実が、それです。正確にいうと、果実のように見える部分は果柄で、黒い部分が果実にあたります。この果実の中に食用にする種子(=カシューナッツ)が入っています。もっとわかりやすい写真がWikipediaに載っていますから、こちらも参考にしてください。


ブラジル・サンパウロ郊外の市場で撮影した果物屋の屋台

 父は、私が小学生の時からブラジル国営製鉄会社のプラント建設の仕事に関わっていて、私も大学生の夏休みにブラジルに2週間ほど滞在しました。今日の話は、その時の体験です。市場で初めて見かけたカシューナッツの元の姿に驚いて、食べ方もよくわからないまま2、3個購入してきました。
 実は、この果実には予想もしない性質があったのですが、そんなことをまるで知らない私は、食べ物ということもあって何も気にもせず、ナイフなどを使って種子部分を取り出そうと試みました。ところが果皮は予想以上に硬く、しかも白い粘液まで出てきて、なかなか顔を出しません。その粘液は異常なほどにベタベタしていましたが、深く考えもせずに作業を続けました。
 ところが悪戦苦闘しても半分ほどしか取り出せず、途中で断念。そこで手に付着した粘液を石けんで洗おうとしたのですが、何度ゴシゴシと洗っても落ちない強い粘着性があり、まるで強力接着剤のようです。十数回繰り返し洗って少しは落ちましたが、それでもまだベタつきがたっぷり残っています。そのうち取れるだろうと楽観的に考えていたのですが、事態はそれで終わりませんでした。

 翌日のことです。ベタついた手も、さらにはその手でさわった顔などの身体のあらゆる部位が赤く腫れ上がり、まぶたも腫れて視界が半分になり、さらには身体中に強いかゆみが出てきました。これは、もう市販の薬でなんとかできる状態ではない、ということになり病院に行くことにしましたが、その日、父は仕事だったので、見知らぬ土地で母と私だけで病院へ行き、しかも医師にポルトガル語で原因を説明することもできません。そこで父が会社で通訳と運転手を手配してくれ、彼らに案内してもらって病院へ行き、診断後、薬局で炎症を止める注射を打ってもらいました。記憶はあいまいですが、翌日あたりから炎症が治まったように思います。
 あとでわかったことですが、実はカシューナットノキはウルシ科なんです。それを知っていたら、種子を取り出そうとは思わなかったでしょう。ブラジルで、まさかこんなことで病院にかかるとは。 
 この悪夢の体験によって帰国したあとも、しばらくはカシューナッツを食べる気になれませんでした。

 
  
 

Nature
こんなことが ありましたとさ
雑記帳

第10話

悪夢のカシューナッツ事件