Nature
 File No.0052

父の介護で作ったもの(2)
勾配スロープとバリアフリー台


 父が亡くなるまで、介護する上で必要に迫られて、いろいろなものを製作することになった。そのひとつが、すでにページアップしている「ソファ用肘掛け置きテーブル」だが、ほかにいくつもある。似た状況にある人には、少しは参考になるかもしれないので、私が作ったものをひとつずつ紹介したいと思う。

 父は小脳の出血で障害が出たものの、退院した直後は、2階にも自力で階段を上がることができていた。といっても少し危ういので、後ろから私がサポートしたのだが、結構しっかりとした足取りで、安心したものである。しかし、その後次第に動きが悪くなっていった。階段と同様に玄関の框(かまち)の上り下りも当初は問題なかったのだが、やがて下りるのを恐れるようになった。なので病院に連れていく時などに手間がかかるようになった。

 動きが悪くなってから室内用と外出用にそれぞれ車椅子をレンタルしたが、その乗り換えの際にはどうしても框というハードルが立ちふさがる。バリアフリーの家であれば、こうした問題は発生しないと思うが、両親が新築として家を建てた頃、そもそもバリアフリーという概念すらなく、当時、そんな事態が将来やってくるとは、思いもよらなかったのだろう。なので我が家はバリアフリー仕様ではなく、框も結構な段差がある。この段差になんとか対応できないかと考えたのが、スロープを付けることだ。実際、介護の現場ではよくある問題のようで、金属製のスロープもレンタルであることはある。ただしどれも板状なので、なにかの拍子に上部が外れると、ガタッと車椅子ごと落ちないかとか、その際に横向きに倒れて父が頭を打たないかとか、不安は尽きない。しかもうちは玄関から入ると右側に框が配置されているレイアウトなので、玄関入口からそのまま框にスロープをかけることはできない。

 そこで玄関に別の台(本項では「バリアフリー台」と命名)を設けて、その台にスロープを接続すればいいのではないかと閃いた。うちの場合は玄関の下駄箱下がちょうど空いているので、普段はバリアフリー台を下駄箱下に半分収納させて、玄関のスペースも確保。父を連れ出す時に台を引き出し、スロープをセット。室内用車椅子から父を抱え上げて、台の上に用意した外出用車椅子(必ず車輪をロックする)に座らせる。車椅子は割と方向転換が容易なので台上で90度ターンして後ろ向きにスロープで車椅子を下ろす。帰宅した時は逆の作業をすればいい、というわけだ。

 その案を元に何日かかけてバリアフリー台と勾配スロープを木材で作った。どちらも一時的にせよ、私と父の合計体重と車椅子の重量がかかることになるので、結構丈夫に作る必要がありそうだ。そこで台の脚部分は角材を何重にも組む構造にした。そのため加工作業にやたら時間を要した。最後に天板を張り、油性ペンキで塗装。台の縁に滑り止めゴムを貼って完成。

 そこまではよかった。問題はこの先。実際に台を玄関に置いてみると、わずかなガタがあった。脚の寸法はどれも同じにしたつもりだが、それでもわずかな誤差がどうしても出るものだし、そもそもタイル張りした玄関床も実は完全に水平ではないのだ。水洗いした時に自然と外に流れ出るように、ごくわずかな傾斜が付けられていることを今回の件で初めて気づいた。加えて、どうも左右と中央も同じではないようなのだ。かなり細かいことをいえば、玄関の左右端よりも玄関ドアの中心部分がごくごくわずかに沈んだ形状にしてあった(水が余計に流れやすいようにという意図か?)。前後は故意にしても、左右と中央の微差は故意なのか、左官工事の甘さなのかは不明だが、我が家は改築時に当時、県内で5指に入るという大工の棟梁一派が手がけたものなので、こだわりも半端じゃなかった記憶がある。なので故意に施工した可能性の方が高いかもしれない。

 どちらにしてもガタがあると、足の踏み位置次第でガタッと音が出て不快だし安定感もよくない。しかも下駄箱下に半分収納している時もガタがない方がいい。しかし収納時と引き出し時、どちらもガタがないように調整するのはかなり難しい。床が水平でも難しいのに、前後左右がわずかに異なる傾斜をしていればなおさらだ。この調整には結構時間がかかった。それとおぼしき脚に板を挟んでみたり、逆にノコギリで削ってみたり。一度はもうガタが出ないようにするのは無理と諦めたこともあった。ところが、その後の調整で、なぜかあっさりほぼクリアしてしまった(ほとんど気にならない微細なガタが残っているが)。どうしてクリアできたのか、私自身もよくわからなかった。 

 一方、スロープの方も丈夫な角材を組んで、玄関の段差も含めてバリアフリー台の高さに合わせた脚を付けた。これならタダの板状のスロープと違って「外れて落ちる」ことはない。車椅子で下ろすとき、私は靴下だけになるので、スロープ表面にも滑り止めゴムを貼った。

 ところでスロープの勾配をどの程度にするかは悩ましいところ。車椅子スロープの勾配はバリアフリー法という法律で決まっており、例外もあるようだが12分の1(つまり1mの段差には12mのスロープが必要という意味)というのが基本。ただ、それは車椅子ユーザーが自分で上がれることが前提の公的な基準なので、個人宅でのスロープは、あくまで介助者によって車椅子の上り下りさえできれば、この限りではないだろう。スロープが長いと、確かに上り下りは楽になるが、その反面、長い分、重くなってスロープの設置や片付けの際に好ましくないし、置き場所にも困る。そこで写真くらいの勾配にしてみた。これくらいの勾配でも父が座った車椅子を上げるのは、少なくとも私の場合は大して困難ではなかった。ただこれは個人差があろう。

 以前は框から下りるのを恐れていやがる父を支えながらなんとか下ろしていたのだが、バリアフリー台と勾配スロープを作ってからというもの、一連の作業がスムーズで楽になった。しかも父にとっても安全なので、いいことずくしである。


スロープの両側には車椅子が脱線しないように板を取り付けた。また介助者である私が車椅子の操作をしやすいように間にも足の踏み場となる板2枚を加えた。本写真も含めて以降の写真4点の塗装面が汚れているのは、製作直後ではなく、今回、掲載にあたって撮影したため。バリアフリー台はいずれ塗装し直す予定。



普段は下駄箱の下にバリアフリー台を半分収納しておく。確かに玄関は狭く感じるが、設置前に想像していたほど邪魔ではなかった。写真左側には窓があるのだが、その開け閉めの際に玄関に下りずに事が足りるので、むしろ、これはこれで便利になった。



父の外出時にはバリアフリー台を引き出す。台は結構重いが、この作業は母でも可能だった。



続いて勾配スロープをセット。バリアフリー台上で父を車椅子に座らせて90度ターン。後ろ向きにスロープで玄関外に下ろす。



バリアフリー台の裏側。天板裏の塗装は省略。計12脚で私と父の合計体重+車椅子重量を支えるようにした。この組み加工が結構大変だった。台の奥側よりも手前側の方が車椅子の出し入れ際に負荷がかかりやすいと思われたので、梁を1本追加した。


バリアフリー台の左右にはゴム足を付けた。出し入れの際に框などに傷がつかないようにするためだ(左)。また手前側には滑り止めを貼った(右)。






















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