Nature

File No.002
モノクロフィルム用一浴現像定着液



 高校の時、友人と2人で開発したモノクロフィルム用の一浴現像定着液。モノクロフィルムの現像をしたことがある人には説明はいらないと思うが、モノクロフィルムの現像では、現像液→停止液→定着液と3段階の処理が必要なのだが、それを一浴、つまりたった一度の液で処理するだけで現像と定着を同時に完了させることができる優れた処方のこと。
 この一浴現像定着液を作るきっかけは、あるモノクロフィルム現像の本にあった一浴現像定着液の処方を見たことだった。書かれている写真薬品は写真店に行ってみるとほとんど揃っていた。一度に現像と定着がすめば、これほど便利なことはない。当時、高校の部活動では安価なモノクロフィルムを使っている部は何も写真部だけではなかった。新聞部や生物部でも使用しており、便利な一浴現像定着液を作ることができれば、校内で「売れるだろう」というもくろみもあった。友人はわざわざ高価な化学天秤はかりを自腹で購入。当時、広島市で一番品揃えによかった写真店に行き、「現像の先生」とほかの店員から呼ばれていた店員の人に教えてもらいながらバラ売りの写真薬品を購入。在庫のなかったフェリドンという薬品は、1瓶でも結構な値段だったが、二人でお金を出し合って注文して購入。そしていよいよ、その本に書かれていた処方で一浴現像定着液を作って、試しに現像してみた。ところがである。これほど苦労して作ったのに結果は全然ダメ。著者に文句をいおうとか、二人で怒り心頭。しかし怒っていても仕方ない。ならば自分たちでちゃんと現像定着できる処方を作ってみよう、と我が家で試作を繰り返した。当然、写真化学の知識があるわけではないから、定番の現像液処方に定着に必要なチオ硫酸ナトリウムを加えるなど、いろいろやってみたところ、初めは失敗の連続だったが、ある時、期待薄で現像タンクを開けてみたところ、な、なんとスッキリと像の抜けたきれいなネガフィルムが姿を現した。予想外の結果に友人と二人で大喜び。我が家の2階の洗面所での、そのひとコマは今でも鮮明に覚えているほどだ。

 当時、我々は新聞部を本拠地にして、写真部や生物部を相手にして安価なモノクロロールフィルムの切り売りもしていたが、それに加えて自ら処方した現像液や、この一浴現像定着液も販売していた。一応、Pax Photo Chemicalという会社名もつけていた。PAXは世界史に出てきた「Pax Romana」から命名したもの。これはローマの平和という意味で、広島だから平和つながりでいい、と名付けたものだ。ちなみに一浴現像定着液の商品名はINPAX。INPAXは、生物部の先輩が買ってくれたり、そこそこ好評だった。これに合わせて、薬品を入れたビニール袋を密閉する独自の方法までも考案した。新聞部の机の引き出しには、こうして作り置きした写真現像薬があり、新聞部と生物部に両方所属する社員(笑)が、生物部から注文を取ってきて「○○の在庫あるか〜」「○○なら在庫あるよ」という会話が交わされていたりした。売っていたといっても、その儲けたるや、校内の限られた部だけを相手にしていたので所詮しれていたが、今、思い出しても楽しい思い出だ。
 今やデジタル全盛の時代。一浴現像定着液を作ってみようとい物好きはいないだろうが、その一部の処方を書いておく。ただ、試作した数十種類の処方のうち、当時のモノクロフィルム現像で最も粒子性がよかったミクロファイン現像と同程度の処方もあったのだが、今回、古い資料を探したところ、その一番よかった処方だけ欠落していた。広島の実家にあるはずの開発ノートには記載されていると思うが、今手元にはないので、それ以外の処方だけとりあえず公開する。

 【追記】 2018年5月11日、当時の開発記録ノートが出てきたので、新たな処方も追加しておく。上記の「粒子性がよい」処方について、私の記憶ではINPAX11-Aと思い込んでいたのだが、今回出てきたノートでは11-Aと下記11-Eがまったく同じ処方であり、ノートを見る限り「微粒子」とはどこにも書いていないことに気づいた。その一方、ノートには、7-Aが「微粒子」とあり、記憶と記録が合わず、もはやどれが正しいのか判然としないが、とりあえずノートにあった処方をそのまま転記しておく。
 実際に試される方は、まずはテスト現像を必ず行って下さい。7-Aは既存の市販現像液を一部利用する処方だが、ノートを見る限り「微粒子」みたいです(作った本人なのに・笑)。もはや40年も経過して記憶も曖昧なので、そんないい方しかできず、ご容赦のほど。
 本ページをご覧になって、モノクロフィルムの一浴現像定着液を処方し、処理されている方も実際にいらっしゃるようなので(以前メールを頂いた)、さらなる情報提供をしておきます。お役に立てるかどうかわかりませんが。


INPAX5−A

ハイドロキノン ………………15g
フェリドン………………………1g
無水炭酸ナトリウム…………40g
無水亜硫酸ナトリウム………40g
カリ明バン……………………15g
チオ硫酸ナトリウム …………80g
水を加えて ………………1000cc



INPAX5−B(量産タイプ) NEW

ハイドロキノン ………………12g
フェリドン………………………1g
無水炭酸ナトリウム…………40g
無水亜硫酸ナトリウム………50g
チオ硫酸ナトリウム …………80g
水を加えて ………………1000cc



INPAX6−A(3−A改良型)

ハイドロキノン ………………8.1g
フェリドン ……………………0.6g
無水炭酸ナトリウム ………26.5g
無水亜硫酸ナトリウム ……52.5g
メトール………………………0.6g
チオ硫酸ナトリウム …………80g
水を加えて ………………1000cc



INPAX7−A(微粒子一浴現像定着液) NEW

コピナール…………………1/4袋(おそらく600ml用)
ハイドロキノン …………………7g
フェリドン ……………………0.6g
無水亜硫酸ナトリウム ………30g
チオ硫酸ナトリウム …………80g
水を加えて ………………1000cc



INPAX11−E

メトール………………………0.2g
ハイドロキノン ………………0.8g
無水亜硫酸ナトリウム…………3g
炭酸ナトリウム一水塩………5.3g
チオ硫酸ナトリウム …………80g
水を加えて ………………1000cc



使用に際しての注意。
@現像と定着という相反する性質の薬品を混合しているために疲労度が早く、2回までしか処理できない。それ以上する場合は、処理時間を長くするか補充液を加える。
A保存性も高くないので、作ったらすぐに使用する方がよい。
B写真薬品の溶解順序。
  1メトールあるいはハイドロキノン
  2チオ硫酸ナトリウム
  3無水亜硫酸ナトリウム
  4アルカリ
  5カブリ防止剤
  6フェリドン
  7酸(ホウ酸、メタホウ酸ナトリウム、カリ明ばんなど)
  8明ばん

C処方後に溶液せずに、そのまま保管する時も、現像系の薬品とチオ硫酸ナトリウムは混ぜて保管しない。
Dいずれの処方でも、当時のモノクロフィルムNEOPAN400などの処理時間は6分だった。処理するモノクロフィルムによっても適正処理時間は変わってくる可能性もあるので、念のためテスト現像を必ず行うこと。万一、この処方でうまく処理できなかったり、何らかの問題が生じても当サイトは、一切その責任を負わない。あくまで自己責任でお願いします。

参考情報→本サイト「雑記帳 会社ゴッコの記録 PAX PHOTO CHEMICAL


 

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