Nature
山岳記
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落石 北アルプス・白馬大雪渓

撮影年月日:2004年7月23日

 夏は白馬岳を目指す登山者で大賑わいの白馬大雪渓で、落石に遭遇したことがある。小さな落石なら、ほかにも経験があるが、この時のものは結構大きな石だった。そんな石が実際に自分めがけて落ちてくるとさすがに肝を冷やす。

 この日、ほかの登山者に混じって大雪渓を登り、途中、雪渓の右手に黄色い花がチラッと見えたので、何の花か確かめたいと思い登山者の列を離れてそちらに向かいかけていた。ちょうど上空を山小屋に荷物を運ぶヘリコプターが通過した直後、右手の谷筋の上部から鈍い音とともに石が落ちてくるのが見えた。ヘリの振動で浮き石が落ちたのだろう。私と周囲にいた数人の登山者もその様子を注視していた。石は雪面を飛び跳ねながら一直線にこちらに向かってくる。最初は石の大きさも落ちてくる方向もわからなかったが、次第に自分たちに向かってくることがわかると、近くにいた男性登山者が「ヤバイ!こっちにくるぞ」と叫んだ。同時に「ラク!」と下にいる登山者に大声で落石を伝える人もいた。私も含めてまわりの登山者は、みんな慌てて逃げ出した。石はやがて、私が花を目指したまさにその場所を通り抜け、少し方向を変えて登山道の30m手前で止まった。

 みんなホッとひと安心し、顔を見合わせて「怖ぇ〜」といいながら笑いあった。私は動きを止めた石に近づき、いつも携帯している小型メジャーで大きさを計ってみた。すると長さ1m、幅90cm、厚さ60cmもあった。こんな石に直撃されたら、生きていられるはずがない。

 それにしても花の場所に着いたあとだったら、もっと怖い思いをしたことだろう。いや運が悪ければ落石の直撃を受けて死んでいたかもしれない。ほんの1〜2分の違いで命びろいをしたのかもしれない。白馬尻小屋などには「落石注意」の看板も立てられているが、雪渓の端の方でのんびり休憩している登山者も見かける。私自身も、落石に対する充分な心構えがあったわけではない。しかし、実際には登山者の多いメジャーコースでも、こんな落石が実際に発生するのだ。改めて周囲を見回すと、ほかにも雪渓上にポツポツと大きな石が落ちているのに気づく。こうした石は、すべて落石によるものと考えるのが妥当だろう。

 最後にこの一件で感じたこと。落石の発生を知らせるのは大切だが、それには「ラク」よりもストレートに「落石」と叫んだ方がよいのではないか。「ラク」は登山知識がある人には通じるが、昨今は知識の薄い素人登山者も結構多く、彼らに「ラク」が通じるとは思えないからである。


落石を追った連続写真(左2点)と、停止した石を撮影したもの。赤線はその軌跡(右)
 







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