| 二分法の問題点を具体例で説明する/2017年12月20日
先日の日記や本欄で書いた二分法について、もう少し具体例を出してその問題点を考えたい。二分法とは、頭の中に白か黒かみたいな答えの引き出しをふたつしか用意しない単純すぎる思考方法で、往々にしてどちらか一方の答えしか選べないものと勝手に思い込んでしまう特徴がある。
【具体例その1】
天 or 地
動いているのはどっち?
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もしガリレオ以前に世界中の人々にこの質問をしたら、ほぼ100%の確率で「動いているのは天の方に決まっている」と答えるだろう。こんな巨大な大地が動いているわけがない。ほら上空を見てみろ、太陽も月も星もすべて東から西に向けて動いているじゃないか。それなのに地の方が動いているなんてありえない…等々の意見が噴出するはずだ。でもガリレオは、さらに詳細に観察して、その常識に疑問をもったわけだ。
その後、人類は長い時間をかけて、ようやく「動いているのは天か地か」の答えとして「地」を選択したわけだ。でも、実は「動いているのは天か地か」という質問自体が二分法的であり、厳密には天動説が間違いともいえないのだ。
確かに中学校レベルの天文知識でもって考えれば、最も目に見えて動いているのは地(=地球)であるように感じられるわけだが、そもそも宇宙自体が膨張している事実もある上に、我々の太陽系が属する銀河系自体が、排水口に吸い込まれる水流のような渦巻構造(正確には棒渦巻状)をしていて、その中心には非常に大きな質量を持つブラックホールが存在している可能性が高いこと。さらに銀河系自体も秒速約600kmのスピードで宇宙空間を移動しているとされ、それから計算すると地球は1日に5184万kmも動いていることになる。
従って地球は自転と公転という動きだけではなく、太陽系や銀河系、宇宙の動きに伴って恐ろしいほどのスピードで別の動きをしていることになる。つまり「天動説と地動説。どちらが正しい?」の答えは、言葉の定義にもよるが、とちらか一方が正しいわけではなくて、ある意味どちらも正しいことになる。
二分法では、このような複雑な答えを想定しにくい。
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【具体例その2】
健康に良い or 健康に悪い
食物繊維はどっち?
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食物繊維に限らず、栄養というのはバランスが大事なのであって、摂れば摂るほど身体にプラスに働く魔法の栄養なんて存在しないと私は考えている。栄養というのは、身体に必要な要素であり、摂らなければ健康を維持できないのも間違いないが、必要以上に摂るとむしろ害になるものもあるし、あるいはそのまま排出されるだけで、手間とお金をかけて摂取しても無駄だったりもする。
テレビ番組で、「〇〇が身体にいい」というのはよくやっているが、毎回、その対象食品は変わり、確かにその情報は正しいかもしれないが、逆に言えば、「多くの食品にそれぞれ異なる、身体にいい成分が含まれている」ことをも意味する。従って、こういう情報に影響され過ぎて、特定の食品を過剰に食べるようになると、その食品に含まれない、もしくは少ない栄養素が足らなくなる可能性が生まれやすい。それはそれで問題といえる。
食物繊維も同様だ。確かに利点が多いのは事実だろうが、摂りすぎると害になるともいわれ、大腸がん発症のリスクを減少させる効果はほとんど認められなかったという研究報告も存在する。近年では過度な「食物繊維信仰」の間違いが指摘されるようになっている。
栄養素が身体にいいというのは、間違いではないが、かといって摂れば摂るほど健康にプラスに働くというものでもない。
二分法では、こうした事実を想定しにくい。
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【具体例その3】
男 or 女
バカなのはどっち?
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たまにネットで議論になったりするようだが、実にナンセンスな議論だと私は思う。こんなことを真剣に議論している人たちは、おそらく自分のまわりのごく少数の男女の傾向だけでもって、男女全体について何かをいおうとしているわけで、「なによりバカなのは、あなた方」といいたくなるような代物である。
とりあえず「バカとは、特定の能力が低いこと」と定義してから、話しを先に進めよう。人間の能力なんて、実に多岐にわたり、一般的に「頭がいいこと」の代名詞に使われがちな記憶能力だけではなく、論理能力、空間認知能力、運動能力、芸術的能力…等々、多くの指標によって、なんとか客観的に評価できるかできないか…といった程度のいい方しかできない極めて複雑なものである。学校の成績や学歴も確かにその指標のひとつには違いないが、それだけでは決して計り切れないものだろう。何年か前に話題になった「地頭力(じあたまりょく)」なんて特にそうだ。
仮に学校の成績だけで考えても、成績と人数をグラフにすると、男女ともに平均を中心とした裾広がりの「正規分布」になる。おそらく人間のほかの能力についても同じ正規分布になると考えられるが、一方でそれぞれが得意とする能力は、男女で食い違いがあるのも事実だろう(=社会的な役割分担)。
答えとしていえるのは、男性にも賢い人もいればバカな人もいる。女性にも賢い人もいればバカな人もいる…ということであり、しかも現実はもっと重層的で、ある特定能力が高い人でも、別な能力では劣るといったことも現実には多々あって、とても「バカなのはどっち?」みたいな単純すぎる問いかけで答えが出るわけがないのも事実。もちろん頭の良さのひとつである「頭の回転の速さ」だけで考えても、この問いに対する答えは前述したものと同じにしかならない。
ただ、現実はこれとも少しだけ違っていて、知能の正規分布で見ると、男性の方が女性よりも「より裾広がり」になることが知られている。つまり、男性はすごく頭がいい人がいる一方で、すごくバカな人もいるのに対して、女性は両方とも男性ほどの顕著な傾向を示さないらしい。
このことは、以前、朝日新聞紙上において脳科学者が「非常に慎重にいわなければいけませんが、分布の形からいうと、頭の良い人は男性に多い、ということになります。こういう研究を性差を認めたくない人たちはとても批判してきました」と述べられていた。ほかの生物の生態と比較しても性差があるのは、むしろ当たり前の話で、生物学的な根拠を一切無視して、無理やり男女を同等に見なそうとする風潮にも私は相当な違和感を覚える。
かといって、私は何も「頭の良い人は男性に多い」ということをことさら声を大にしていいたいわけではなく、わかりやすくいうと頭のよさをクジ引きにたとえれば、男性の方は大当たりもある代わりに大外れもあるのに対して(=標準偏差が大きい)、女性はそこまで顕著なバラつきにならず(=標準偏差が小さい)、当たりと外れくらいの範囲にまとまっているということであり、おそらく平均すれば大差はなく、つまりどちらがいいとか悪いとかいえず、見方によっても評価は変わってくるような話しなのだ。これも人類が進化の過程で獲得した種を維持発展させるための役割分担かもしれない。
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【具体例その4】
健康 or 病気
あなたはどっち?
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二分法思考回路の持ち主は、自分の身体の状況さえも「自分は健康である」と「自分は病気である」の2パターンしか想定しない。確かに「病気」の方は、風邪くらいの軽い病気もあれば、入院して手術が必要な病気、あるいはもっと重篤な病気があることくらいは、みんな理解しているわけだが、一方の「健康」の方は、そのまま全部をひとまとめにして「健康」と認識していたりする。
例えば20年もの喫煙歴がある喫煙者が、健康診断を受けたところ、なんの問題もなかった場合、「自分の身体はタバコの害に耐性がある」とか「タバコには本当に害があるのか疑問だ」と勘違いしたりする。
人間の身体の状態とは、「健康か or 病気か」のどちらかで表現できるほど単純ではない。もし20年前に喫煙を始めずに非喫煙のまま現在に至っている場合の身体の状態と比較すれば、両者は同じではない可能性が高い。どちらも表向きは「健康」であったとしても、「より健康な状態といえる」確率は非喫煙の場合の方が高いだろう。
表向きは、同じ健康な状態であっても、喫煙をしていれば、それがすぐに病気につながらないまでも、身体の中では分子レベルの異常が発生しやすくなっている可能性が高い。細胞分裂の際に遺伝子のコピーミスにもつながりやすく、たとえコピーミスが発生しても若いうちは修正も可能だが、加齢とともに修正しきれなくなり、病気につながる可能性が、非喫煙状態よりも高くなると推定できる。タバコを吸い続けることによって、たとえ表向きは健康であったとしても、遺伝子のコピーミス頻度や免疫細胞の数みたいなミクロな指標で見ると、徐々に数値が悪化している可能性が高いと考えるべきだ。
つまり、二分法ではこのような表向きはわからない微細な事実を想定しにくい。
こうした具体例で考えると、二分法では、細かい現実を見落とす可能性が高いことをご理解いただけるのではないだろうか。結局、わかりやすくいうと二分法思考回路の持ち主は、ほぼ例外なく「単純」という言葉でくくれるわけだが、それゆえに、正しい認識ができない可能性が高いことに気付くべきだろう。
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