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福島原発事故独立検証委員会の報告書について思うこと/2012年2月29日

 福島原発事故の政府対応を検証していた民間の独立検証委員会が出した報告書で「政府の初動対応に混乱があった」としたことから、自民党の谷垣総裁が「人災」と批判したそうだが、あの時、谷垣さんが総理大臣であったとしても、おそらくそれ以上の評価をされることもなかっただろうし、それに福島原発の問題を見過ごし、原発事故の危機対応システムを作ってこなかった自民党にも責任がないわけじゃない。

 マスコミが右の旗を上げれば右の旗を見、左の旗を上げれば左の旗を見るような国民からすれば、こういう報道に接して単純に「菅と枝野はけしからん」という風になっちゃうんだろうけど、菅さん自身も原発対応は大失敗だと振り返っていることもわかった上で、それでも私は次のように思う。

 あくまで仮定の話だが、菅政権の原発事故対応を総合評価をしてみたところ、わずか30点だったとしよう。それを知った国民は「30点とは、なんという低得点だ」と憤慨するわけだが、たぶん歴代のどの政権下であったとしても、似たような点数か、でなければもっと低得点だっただろうと私は想像するのだ。つまり歴史的に見ても希有な国家的危機、なおかつ一刻を争う緊急事態。しかも情報は錯綜して、何が正しいのかわからないし、東電に問い合わせても回答がなかなか戻ってこない。現場ですら事態をつかめずにいたわけで、そういう中にあって完璧な対応がとれる政治家なんてほとんどいないということだ。

 現場の緊迫感に飲み込まれることもなく、胃がキリキリと痛む極度のストレスに晒されているわけでもない部外者が、あとから「これは正しい、これは間違い」とはいくらでもいえる。もちろん、だからこそ冷静に検証できると思うし、今後に活かす意味からもこうした報告書を作ることは重要だと思うが、仮に検証委員会の委員長や委員が総理大臣として当時の状況下に置かれたとしても本当に的確な判断ができたかとなると、まったく別問題だ。

 緊急事態にどう対応するかというのは、別に政府だけの話じゃなくて国民にもいえる。例えば津波避難に置き換えて考えるとわかりやすい。津波が迫っているという情報を受けて、海辺に住んでいる津波未経験のあなたはどう行動するだろうか。津波が来るまで少し時間があれば、最低限の貴重品を持って逃げたい。でもそれを選んでいると逃げ遅れるかもしれない。すぐに逃げるにしても少し離れた高台まで逃げるべきか、それとも最短時間で避難できる自宅近くのビルを選ぶべきか。高台に逃げるのなら移動手段は自動車か自転車か、あるいは徒歩か。またどこへ避難するのが最も安全で、どのルートが一番早いか。何メートルの津波が、あと何分後に押し寄せるのか、何もわからず、津波にのみ込まれて命を落とすかもしれない極限の精神状態のまま、しかも津波から避難した経験もなければ、なおさらベストな判断ができるとは思えない。

 それでも最善と思われる手段を選び、行動するしかないわけだが、途中で津波にのみ込まれれば、結果を知っている他人が平穏な精神状態で検証して、あとから「正しい判断はこうだった」とはいくらでもいえる。確かに的確な判断によって避けられるリスクも多々あるだろうが、原発事故のように膨大な複合要素が含まれる事例では、あらゆる事態を想定し、あらかじめ予行演習でもしない限り、すべてに的確な判断を下していくのは不可能である。

 目の前に掲げられた選択肢、AとBどちらを選ぶ? 明日までじっくり考えても構わないのならともかく、間髪入れずに即断しなければならないとしたらどうだろう。そういうタイムリミットが迫られる判断を繰り返し求められる中、常に的確な判断を下すのは極めて難しい。原発事故後の政府の初動対応も、これと同じだと思う。もちろん政府の責任というのは個人のそれよりもはるかに重いわけだが、最悪の事態を回避できたという時点で、それはそれで評価するべきだ。今回の報告書でも菅さんが東電を撤退させなかった点については評価しており、これは当然だと思う。




 
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