Nature
スピリチュアルブームに思うこと/2008年2月11日

 最近、テレビ番組の影響からスピリチュアルブームといわれ、ネットや新聞を見ると、いろいろな意見が取り上げられている。「霊感商法を助長させる」という否定意見がある一方で、視聴者の中には完全に信じ切っている人も多いそうだ。私は江原啓之氏の番組は、暇つぶしに見たことがある程度で、どう思うかと聞かれれば「何ともいえない」くらいのことしかいえないが、この手のテレビ番組を安易に全国放送で流すのはどうかと思う。占いにしろ宗教にしろ、ある程度の距離を保つ方がいいし、それだけに頼るようになれば自分で考えるのを放棄したのと同じことだ。それはそれで怖いことである。残念ながら世の中には、批判精神に劣る人は多い。ある意見を聞いたとき、本当にそういえるのか、よく考えないで、安易に受け入れてしまう。特に自分にとって都合がいい意見の場合には、その傾向はさらに高くなる。そんな現状を考えれば、社会への影響が大きいスピリチュアル系のテレビ番組は慎重であるのが望ましい。

 ただ、その一方で私はこうも思う。例えば科学の分野で、研究者が提唱したある仮説が真実か否か、という判断をする時、実験をしてデータを集めるなど、極めて厳密な過程を踏んでいく。もし反証が出れば仮説は間違っていたことになるし、仮説に沿うデータが次々に集まれば、仮説は次第に定説とされるようになる。このように真実か否かという判断をするには、厳密な検証が必要なはずで、それは、この手の話でも同様でなければならない。「あれはニセモノに決まっている」という人も多いと思うが、彼らはきちんと検証した上で発言しているわけではない。もちろん検証云々の前にいろいろな印象を持つのは人間として自然なことだし、それを口にするのも自由なわけだが、あくまでそれは「印象」に過ぎないということだ。私がその意見を聞いても、そういう印象を持つ人がいるのがわかるという程度の話であって、それを聞いたからといってそのまま受け入れることは絶対にない。なぜなら、そこには根拠が欠落しているからである。否定するのであれば、先に説明したような仮説と同じように厳密な検証を行った上で、きちんとした根拠を提示すべきである。

 「霊感商法を助長させる」という意見は、これまでも散々聞かれ、そういう観点から霊魂について語ることもけしからん、という科学者もたくさんいらっしゃる。霊感商法は言語道断だし、同時にそれに簡単にひっかかってしまう人にも問題があると思うが、だが霊感商法が言語道断ということと、霊魂が存在するか否かというのは何の関係もない。それをいうのなら弁護士を語って詐欺をする連中がいるから弁護士はけしからん、というのと同じ論法である。こんなことをいうと早とちりがお得意の人からは、私が霊魂の存在を信じていると思われるかもしれないが、そうではない。正確には「何ともいえない」というのが私の考えである。ただ自分自身の経験から、やや存在するという方に傾いているくらいである。

 また霊魂やUFOを否定するのが科学的だと考えている人もよくいるが、それは科学と論理を実はよくわかっていない証拠である。科学者はみんな霊魂やUFOの存在を即座に否定すると思っているだろうが、本当に科学と論理を厳密に考え、現象に対して謙虚な姿勢を貫く人は、「何ともいえない」としかいわないものだ。脳科学者の茂木健一郎氏も以前テレビで「UFOは科学的にはあるともないともいえない」とおっしゃっていた。科学者だから論理的なのは当然だが、考え方が柔軟である。おそらく脳科学者だけあって「時には知識が論理を邪魔することがある」のをよく理解されているのだろう。

 今回、江原氏がカウンセリングした女性が、実はカウンセリングを希望していなかったことを見抜けなかったというのでマスコミに叩かれているらしい。「江原氏に超能力があるというのなら、どうしてそれがわからなかったのか」という作家の意見もあった。江原氏の肩をもつ気はさらさらないが、この意見は少しおかしい。「超能力者なのだから100パーセントの確率で相手の心を読み取れるはず」というのは、この人の勝手な解釈である。その解釈を前提として反例が出たではないか、100パーセントではないのだから江原氏はいかがわしいと断じるのはちょっと論理が稚拙だ。もし江原氏自らそういっていたのであれば、確かにウソと断じてもいいのだが、しかし頭のいい人なら「100パーセント当ててみせます」なんて、わざわざ自分のリスクを高めるようなことを公言しないと思うんだけどね。
 ひとつおもしろい例を出そう。あくまで仮定の話だが、次の2点を読んで、みなさんはどう思うだろうか。


[例1]
ある占い師が占った1000例の結果を、後日、専門家がきちんと科学的に検証した結果、なんと8割の確率で的中していた。的中率8割とは、偶然の確率よりも高く、この占い師の実力が証明された。


[例2]
ある占い師に見てもらったところ「亡くなったお父さんが、あなたを見守っています」といわれた。しかし父親はまだ生きている。この占い師はニセモノだ。


 このふたつの例が、もし同じ占い師だったとしても、まったく矛盾はしない。例2は、例1で占いが外れた残り2割の中のひとつだった可能性もあるからだ。
 私はスピリチュアルブームを肯定するつもりはないし、ことさら擁護するつもりもない。ただ科学上の仮説だろうと、霊魂の存在だろうと、それが真実か否かという判断をする時は、このくらいの厳密さで判断すべきということなのだ。だが、現実には世の中の多くの人は、結構粗雑な論理をもとに、あるいは自分の印象だけで断じている。実は「霊魂は絶対に存在する」という人も「霊魂は絶対に存在しない」という人も、根拠がなければ同じようなものだ。むしろ実際に霊をはっきり見た人なら「絶対に存在する」というわけで、根拠もなく印象だけで「絶対にない」と断じる人よりも、よほど論理的といえる。

 ちなみに大学で自然科学系分野を教えている私の友人は、外国のホテルに宿泊した際、幽霊に遭遇したと証言している。私は科学のプロである彼の証言には多少なりとも説得力があると思っている。




 
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