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ワクチンは決して「犬連れ登山」許容の切り札ではない (追加記事)


 犬連れ登山賛成派の主張を見ていくと、まるで専門家もそれに同調しているかのようなことを書いているものもある。例えば犬連れ登山は問題ないとする無記名の森林生態学者の意見を載せているサイトも見受けられるが、仮にそう証言する森林生態学がいたとしても、それは森林生態学の見地からいえば問題ないということでしかない。しかし、この問題の正否を判定するのに森林生態学者が適当とは、私には到底思えない。
 この問題において真っ先に意見を求めるのは、森林生態学者などではなく、最も懸念される野生動物の感染症に詳しい専門家であるべきだろう。そこで、私はその分野の専門家である大学の先生に意見を求めたが、犬連れ登山に対しては完全に否定的だった。その理由は、先に説明した通りワクチンを接種している犬であっても、ほかの動物に病気を起こすような病原体をもっている可能性があること。次に万一、そうような病気が抵抗力の弱い野生動物の間で流行すると、これをくい止めることは不可能であり、最悪の場合は希少動物の絶滅などの大変な事態になる可能性すらある。以上2点が、反対する理由であるとのことだった。私はほかにも野生動物の専門家数名にも意見を求めたが、答えはいづれも否定的だった。
 犬連れ登山賛成派が、まるで専門家のお墨付きを得たかのように書いていても、実は自分たちにとって都合のいい意見だけを選択的に載せているのに過ぎない、というのが、これではっきりしたと思う。彼らのスタンスは「自然を守ることに異議はなく納得できる理由があるのなら犬連れ登山禁止も理解するが、そうではないでしょ」という感じに受け取れる。だが不思議と質問を送りつけるのは専門家でもない地元役場や森林管理署ばかりで、最も核心に迫れる専門家には意見を求めようともしない。この姿勢に筆者は甚だ疑問を感じる。結局は自分たちの主張に否定的な意見が出そうな専門家は避けたい、というわけか。
 また、ネット上にはいかに飼い犬が安全であるか説いている意見もあった。だが、その主張は主観といえばそれまでの話しも多く、しかもワクチンについて正しい知識を持ち合わせない人物から、飼い犬の安全性を説かれても説得力はゼロである。

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