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世の中のウソ


その1
カップめん容器のスチレン溶出試験結果のごまかし



 何年か前にインスタントカップラーメンなどの容器から環境ホルモンのスチレンが溶出するかしないか、ということが話題になったことがあった。一部のメーカーはそれを受けて紙製容器に変更したところもあった。
 その後、スチレン溶出についての試験結果が業界側から発表された。業界側からの発表だから当然、その結果は「溶出はゼロ」というものだったが、私はその会見をテレビで見て疑問に感じた。容器に90度の熱湯を注いで調べたところ溶出は認められなかったという。ここで肝心なのは「90度」という点である。普通、カップラーメンに注ぐお湯は90度なのだろうか。確かに電動ポットは100度ではなく、90度で保温するものが多い。だが電動ポットではなく、やかんでお湯を沸かし、沸騰したところでカップに注ぐ人も多いはずだ。もちろん注がれたお湯はずっと100度で保たれるはずはないから次第に湯温は低下していくだろうが、これは試験条件として最大限の可能性を考慮してはいない。
 もし、私が担当者だったら、仮に90度のお湯を入れる人の割合が多かったとしても、「それでも敢えて可能性がある100度で調べてみましたが、それでもまったく溶出はありませんでした」と自信満々に発表するだろう。それなのにどうして90度という数値で遠慮したのだろうか。なぜ100度でも調べなかったのだろうか。本当は調べたけれど、その結果は到底発表できるものではなかったからではないのか。つまり100度では溶出したからこそ、90度という設定にしたのではないのか。そんな臭いがプンプンする。これがごまかしでなくて何だろうか。
 もちろんスチレンの人体に対する影響については別の問題であるが、こういうごまかしをするインスタントめん業界にも失望したし、それについてあまり追及しなかったマスコミにもがっかりした。私が知らないだけで、追及したマスコミもあったかもしれないが、だが、その後この問題はあまり話題にならなくなった。マスコミも情けない。仮にスチレンの影響は大きくなかったとしても、ごまかしをする姿勢をもっと正すべきではないのか。

 実はこの手の話は昔からある。1970年代には、某有名外国製プラスチック密閉容器から化学添加物が溶出するということが問題にされたことがある。この時もメーカー側は、今回のインスタントめん業界と同じような「ごまかし」で反論している。つまり測定の条件を都合よく設定する、あるいは都合よく解釈するといった「ごまかし」である。本来、口に入るものの安全性というのは、平均値ではなく、可能性のある最大値で考えるべきなのに。
 よくこの手の問題でいわれるのが「国の環境基準に適合しているので問題ない」という主張。だが、実は調べてみると日本の基準は諸外国のそれよりも非常に甘かったりする。つまり、国の基準に合っているから健康に影響がないとはいえないのだ。それを知っているからこそ「健康に影響はない」とはいわず「国の基準に合っているから問題はない」という言い方をするわけだ。それなら確かにウソではない。もし将来、健康を害する人がいたとしても、「それは我々の責任ではなく国が悪いんでしょ」で終わってしまう。
 また「直ちに健康に影響があるわけではない」というのも、額面通りに受け取らない方がいい。つまり、すぐに病気になるようなことはないといっているだけで、決して将来に渡って安全性を補償しているわけではないのである。環境ホルモンをうっかり口にしても、確かに「直ちに健康に害はない」が、ダイオキシンのようにかなりの時間を経てから影響が出始めるということはあり得ることなのだ。