Nature
 File No.0055
変則折れ戸のガレージ扉


 うちでは、私の車はガレージに、免許を返納するまで父が使っていた車(先日、私に名義変更した)は、少し離れた敷地内にある平面駐車スペースにそれぞれ置いている。ガレージを作った当初はいずれシャッターを取り付ける予定で、その前提の構造にもなっているのだが、父が出し入れの際にむしろシャッターがない方が手っ取り早いと結局付けないままになっていた。それで何十年もまったく支障がなかったのだが、近年になってアナグマやイタチと思われる動物が入ってテリトリーを主張するために中で糞をしたり、ノラネコが車に上がってフロントガラスに足跡をつけたりして、問題が顕在化。

 入口に防獣ネットを張ったのだが、ノラネコは夜にわざわざそれさえも越えて侵入してくる。雨露をしのげるし、夏は車が冷たくて気持ちいいのだろう。そこでさらにネットを高くしてみたが、それでもやっぱり侵入され、入口を完全に封鎖できる、なんらかの方法を検討せざるを得なくなってきた。

 最初に思いついたのは、最下端に角材のような錘を取り付けた防獣ネットを入口の天井から垂らし、両端は15センチおきくらいにカーテンレールと結ぶ。上から垂らした紐を角材に付けて、紐を引っ張れば、防獣ネットがスルスルと上に上がり、ガレージ入口が開く。紐には金具を付けておき、それをガレージ側金具に引っ掛ければネットが上がった状態で固定され、ネットを下ろせば入口を簡単に封鎖できる。角材の錘により、ノラネコやアナグマの力ではそれを押し上げての侵入はできないだろうというわけだ。工作難易度もそう高くはない。ただ、やはりガレージの形態としては、あまりカッコよくない。といって既製品のシャッターを業者に取り付けてもらったら、かなりの金額になりそうだ。

 そこでガレージ用扉を自分で作ることにした。ただ、左右の扉2枚からなる、単純な観音開きにするわけにはいかなかった。そもそも観音開きの扉では、開けた時に隣の家の前まで大きく出てしまうし、ほかにも問題があった。ガレージは父が設計したものだが、階段の配置との兼ね合いで、右側のガレージ壁面をまっすぐにできない事情があった。いや、しようと思えばできないことはないが、それを優先すると階段の幅が狭くなり、将来、例えば冷蔵庫とか家具とか、何かちょっと大きいものを搬入する際に不便になる。そこでやむを得ず、階段の幅をある程度確保するために、ガレージ右側壁面の入口側だけ内側に向けて少し斜めにする設計になっている。入口の右内側にもシャッター用の溝が掘り込まれているが、壁面自体が斜めになっているせいで、ここに扉を付けると内側に向いた状態までしか開かず、ガレージの扉としては問題がある構造になってしまう。

 ではどうするか。思いついたのは、左右それぞれを折れ戸(折りたためる扉のこと)にし、さらに折れ戸を外側へはみ出させる役目をもつ、いわば「はみ出し戸」を支柱との間に追加して計6戸から構成される変則折れ戸にする方法だ。具体的な構造は下図をご覧頂きたい。うちのガレージに扉をつけるとしたら、この方法しかないと思われた。ただ、すでにでき上がっているコンクリート製ガレージの入口にピッタリの寸法で計6戸からなる木製扉を取り付けるのは、かなりハードルが高い工作となるのは確実だった。

 私が実際に行った工程は次の通り。まずシャッター用溝にハンマードリルで穴を開けて、アンカーボルトで支柱を仮固定する。支柱にはあらかじめ蝶番用の加工をしておき、まずは左右端の「はみ出し戸」を作って支柱に取り付けてみる。この「はみ出し戸」どうしの間の寸法の4分の1が、残りの4面の各折れ戸の幅ということになる。ただ、メジャーで計ると不正確なので、私は小数点以下3位まで正確に計測できるレーザー距離計を使った。仮固定している「はみ出し戸」の上部、中央、下部でそれぞれ寸法を計ってみると、意外なことに各計測値の差は2ミリしかなかった。この程度なら調整でなんとかなる数字だ。

 一応、計測値のうち中央値を4等分し、その幅でとりあえず残りの折れ戸の枠だけ組んで仮設置してみた。悪くはないが、この段階では6戸が蝶番でつながって宙に浮いているだけなので、後ろに支えるものがない。なので前後に動いて寸法の検証はしにくい。下にブロックを置いてみると、とりあえず固定はできたが、いろいろ問題があることに気づいた。上記の方法でも左右折れ戸中心の隙間が上下で一定ではないとか、左右折れ戸の上下位置が合ってないとか、あるいは蝶番の溝がわずかに深すぎたせいで、各戸がやや外側寄りでしか閉まらなかったりした。これらの問題は、あとの調整でなんとかすることにして、まずは寸法通り4戸を本格的に作る。桟は1戸につき39本、6戸で234本も切り出す必要があり、それらをすべて二段穴に通した木ネジで固定したので、結構、製作に手間がかかった。その上でまた仮設置してみて、前述の問題も含めて調整していった。

 ただ、これらの諸問題の調整も結構時間がかかった。しかも一度取り付けては取り外す作業を繰り返していると、前回は問題なかったのに次の取り付けでは微妙な別のズレが発生したりした。左右折れ戸間の隙間はなるべく狭い方が美しいので、そうなるように細かい調整をしたが、気温が下がると木がわずかに収縮するようで、後日、季節進行で気温が下がると隙間がわずかに開いた。気温により木の膨張と収縮も少し念頭に置いていたが、思ったよりも大きい差が生じた。ただ、使用上は問題ないレベルである。

 やがて、なんとか諸問題をクリアしたので、一旦すべて取り外し、水性防腐塗料を塗り、水性ペンキで仕上げた。最後にステンレス製取手をねじ止めしてからガレージに戻し、鍵付き掛金具と丸落としを取り付けた。丸落としにはステンレス製落とし受けも採用した。わざわざこのために17ミリのコンクリートドリルを購入し、ガレージ床面に穴を開けてはめ込んだ。こうしてガレージ用変則折れ戸が完成した。我が家のガレージが2代目にして、ようやく鍵付き折れ戸で開け閉めできるようになった。費用はスライド丸鋸代を除いて約6万円。ノラネコよ、アナグマよ。ざまーみろ! これで侵入できねぇだろ。「参りました」って言え!(笑)。



完成したガレージの変則折れ戸。作った本人がいうのも何だが、もはやプロの仕上がりだな、どう見ても(笑)。いや、細かいところを見れば、実はいろいろ粗があるんだけどね。


変則折れ戸の図解

※上から見た6戸と蝶番の配置






以前のガレージ。アナグマやイタチ、ノラネコをブロックするために防獣ネットを張ったが、車の出し入れの際にネットを外したり取り付けたり、ものすごくめんどうだった。



支柱を作ったあと、各戸の枠を作り始める。戸はタダの板状ではなく、ガレージ内の風通しがいいように少し凝った構造を採用した。そのため膨大な二段穴を開ける必要があった。木ネジで固定したあと、化粧用の丸材を埋め込んでネジ頭が見えないようにした。蝶番もステンレス製の丈夫な製品を14個使用。



「はみ出し戸」を作っているところ。普通のノコギリでギコギコやっていては埒があかないので、写真に写っているスライド丸鋸を購入した。これがあれば、かなり正確に同寸法の部材を大量に切り出すことも可能となる。各戸の桟(横木)どうしの隙間はイタチが入れない2センチにした。



ガレージの左右にハンマードリルで穴を開けて支柱を取り付け、「はみ出し戸」を仮に設置してみた。この段階で両戸の間の寸法をレーザー距離計で計る。その寸法から中心隙間分の2ミリを差し引いた上で、あとの4等分が残りの各折れ戸の幅になる。



とりあえずその寸法で枠だけ作って、うまく入るか確かめる。



幅の寸法は問題なさそうなので、各折れ戸の本格工作に入る。戸の下部は戸の矩形を維持させる目的で板を組み込む構造を採用し、上部は斜めに切断して接合する「留め継ぎ」にした。



左側の折れ戸が対で完成したところ。細かい隙間はパテで埋めて目立たないようした。



支柱と各戸ができたので水性防腐塗料を塗る。このあと水性ペンキ(色はブラウン)で仕上げた。



戸だけでは閉めたときに6戸が一直線にならないので上部にバーを付ける。各折れ戸とバーは計10対あるネオジム磁石で軽く固定できるようにした。一方、はみ出し戸の裏側には同寸法のゴム足を配置。


↑上部のバー。ハンマードリルで壁面に穴を開けてエビプラグと木ネジで固定。取り付けたあとにバーの前後位置を微調整できるようにしておいた。
 

↓丸落としと落とし受け。落とし受けは、床面に穴を開けて押し込み、若干の凹凸はモルタルを練って補修した。

変則折れ戸を開けるとこんな感じ。「はみ出し戸」のお陰で、サイドミラーを収納しなくても出入りできる。

左右の変則折れ戸を開けたところ。「はみ出し戸」が果たす意味が、これならわかりやすいかも(上の写真2点)。ちなみにガレージ内にはパソコンで作ったスケールが貼ってある。デリカは運転席から車の先端が見えないので、ガレージ奥の壁面まで、あとどれくらいか把握しずらい。そこで前方と左右カメラの映像をモニターに映して、赤い三角印が左カメラ画面の左端に来たら車を停めるようにしている。赤矢印を過ぎると壁面に当たってしまう(左)。
 
 
 
 



























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