山を舞台にした不思議な話が載っている本の中から、特に私が印象的に感じたものを厳選してみた。いづれも怖〜い話や不思議な話ばかり。ただ、おそらくすでに絶版となっているものもいくつかあると思われる。定価は所有している本に掲載されているものをそのまま転載したので、消費税導入以前のものや消費税3%時代のものなど、混在している。
黒部の山賊 伊藤正一著/実業之日本社/定価1200円 B6版/平成6年 北アルプスで何軒も山小屋を経営する著者が、実際に山で体験した不思議な話が多数収録されている。黒部源流のヤブの中で見つかった白骨遺体の話など、謎としかいえない不可解な体験談ばかり。初版は昭和39年だが、平成6年に新版が出た。 |
山の怪奇・百物語 山村民俗の会編/エンタプライズ/定価2060円 A5版/昭和64年 山の怪異譚ばかり19篇を集めた本。どの話も印象的だったが、特に記憶に残ったのは、「丹沢の山霊・あとおいこぞう」と「京都北山怪奇噺」の2篇。前者は丹沢の山で炭焼きをしている人が、夜の山で見た子供の山霊の話。後者は北山のさまざまな不思議な話がまとめられている。シリーズ山と民俗第6巻。 |
現代民話考 河童・天狗・神かくし 松谷みよ子著/立風書房/定価1800円 四六版/昭和60年 著者は童話作家として著名な松谷みよ子氏。民衆の笑い話や不思議な話は、すべて現代の民話である、との視点から、多くの体験談を集めている。河童や天狗に遭遇した話から、神隠しに遭い行方不明になった話まで様々な話は読んでいて飽きない。シリーズもので、ほかに「夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂」なども。 |
あの世からのことづて 松谷みよ子著/ちくま文庫/定価340円 文庫版/昭和63年 いわば「現代民話考」を文庫本化したもの。一番印象的だったのは、「民話考」にも掲載されている大正時代の青梅を舞台にした神隠し譚。山から泣きながら下りてきた女の子。その子は前日に東北地方の山村から姿を消していた…。著者の語り方がうまく、リアリティーを感じさせる。 |
山とお化けと自然界 西丸震哉著/中公文庫/定価580円 文庫版/平成2年 西丸震哉氏は食生態学者にして探検家。私が影響を受けた好きな作家のひとり。この本は、タイトルが示す通り、山での不可解な体験談が語られている。西丸氏は、柔軟かつ論理的な考え方をされており、私は非常に共感を覚える。氏自ら描かれたシンプルな挿し絵も好き。「食べ過ぎて滅びる文明」(角川文庫)にも同じような体験談が掲載されている。 |
遠野物語・山の人生 柳田国男著/岩波文庫/定価400円 文庫版/昭和51年 「遠野物語」は、いわずと知れた名著だが、中身は結構怖い。幽霊、天狗、座敷わらし、山の民など、さまざまな異界の者たちが登場する。また「山の人生」では神隠しなどの不思議な話が語られた上で、民俗学者らしい分析もされている。なお、ちくま文庫「柳田国男全集第4巻」にも収録されている。 |
山のふしぎと謎 上村信太郎著/大陸文庫/定価500円 文庫版/平成4年 日本だけでなく、世界各国を舞台にした山の不思議な話を収集。興味深かったのは谷川岳肩ノ小屋に現れたノラネコ(?)の話だったが、ほかに山岳ガイドが体験した怪異譚や埋蔵金伝説など、山にまつわる話題を多数提供している。残念ながら、本書は古本屋でしか手に入らないだろう。 |
日翳の山 ひなたの山 上田哲農著/中公文庫/定価320円 文庫版/昭和54年 著者が山での出来事を綴った画文集だが、その中に2話ほど不思議な話が載っている。そのひとつ「岳妖」は昭和15年に朝日連峰で実際に起こった不可解な遭難事故の話。ザックの締ひもは、何のために引き抜かれ、一体どこに消えたのか。それは推理小説ばりの不可解さであり、読み応えがある。著者は画家にして登山家。 |
山の本 第8巻 夢枕獏・柴田篤志ほか著/白山書房/定価1400円 A5版/平成6年 「山歩きの読本」という副タイトルが示されている通り、毎号さまざまなテーマで随想や紀行文を紹介している季刊本。そのうち第8号の小特集「不思議な出来事」では、7人の話者がさまざまな山での不思議な出来事を語る。作家の夢枕獏氏がヒマラヤや信州で体験した話も興味深かったが、最も怖かったのが柴田篤志氏の体験談。 |
山のミステリー 工藤隆雄著/東京新聞出版局/定価1500円+税 四六版/平成17年 山小屋の主人から聞いた、さまざまな怪奇譚を集めている。話しにリアリティーがあるのは、その多くが山ヤなら誰しも知る著名な山小屋の主人の体験談だからだろう。人智を越えた不思議な話ばかりではなく、丹沢の山奥に残る戦時中の戦闘機の話しなど、別の意味で興味深い話題も入っている。本屋で見つけて即購入。家に帰って一気に読んだ。この手の話が好きな人には絶対おすすめ。 |