文系の人が認識している
科学関連知識の95%は間違い






 まず最初にお断りしておきますが、仮に今、この記事を読んでいるあなたが文系の人だとしても、何もあなたの科学関連知識の95%が間違いだと決めつけているわけではありません。あくまで文系の人全員の平均として「せいぜいこんなもんだろう」と予想した数字に過ぎません。あなたの不正解率は70%、80%かもしれませんし、あるいは逆に99%かもしれない(笑)。あれ? もしかすると、いくら文系でも半分くらいは正しいはず…なんて思ってませんか? いいえ、ガッカリさせて申し訳ないですが、残念ながらそんなもんです。

 このことは文学、歴史学、法学、経済学…等々の文系分野に関して、理系の人が認識している知識の不正解率を調べれば、おそらく似たような数字になるだろうことの裏返しです。ただ、文系の各分野どうしは、理系の各分野どうしよりも関連性が低いので、文系の人でも自分の専門外の分野では、理系の人と同程度の不正解率になるだろうとも予想されます。また理系の人は、論理的な考え方ができる人が多いので「自分は文系分野のことまで理解している」とはあまり勘違いしないのに対して、文系の人はなぜか「自分は理系分野のことまで理解している」と勘違いしやすい…ともいえそうです。

 理系分野は一見、日常生活とは無関係に見えて、例えば健康に関することのように実は身近なことだったりしますので、余計にその境界線を見誤りやすいのかもしれません。そのため本当は文系の人が判断できるはずもないことをなぜか自信満々に判断しちゃって答えを出していることも多いわけです。

 そのわかりやすい好例が、タバコの害です。タバコの害について何かをいうには、例えばタバコのどの成分がどれほど身体に悪影響を及ぼすかとか、ニコチン依存症や肺ガンなどの原因となるリスク評価とか、あるいは疫学調査の結果やそれをどう評価するかとか…。当然こうした知識や分析力が必要なはずです。ところが、その知識の欠片もない文系の人が、勝手に答えを出していること自体、実に不思議な話といわざるを得ません。このような例は枚挙に暇がなく、まさに文系の人が「何ひとつわかってないにも関わらず、わかった気になっている」ことの明確な証拠にほかなりません。

 文系の人は、タバコの害のような科学関連のことで答えを出す時、ふたつの方法しかありません。ひとつは、自分が漠然と抱くイメージで答えを出す方法。もうひとつは、他人やメディアがどう判断しているかを伺って、それを大いに参考にする方法です。文系の人は生まれてこの方、このふたつの方法でしか判断したことがないので、物事の判断方法とは、このふたつしかないと思い込んでいます。でも、本来はどちらも正しい判断方法とはいえません。

 文系・理系に限らず人間であれば、すべての人に多かれ少なかれ共通する話なんですが、脳は自分が知らない空白部分を勝手に補完して全体をとらえる性質があります。これを脳科学では、ゲシュタルト効果といいますが、専門外の分野に関することでも多少は予備知識がある理系の人よりも、文系の人の方が空白部分が多いのはいうまでもありません。当然、空白部分が大きければ大きいほど、ゲシュタルト効果が発揮されやすく、それだけバイアスがかかりやすいことを意味しています。

 マスコミやネット情報を無条件に信用する人もいっぱいいると思いますが、その情報発信をしている人自体が、文系でよくわかっていないことも多く、要は「玉石混淆」なんですよ。最近、医療系まとめサイトのずさんな実態が問題になりましたが、テレビや雑誌、新聞でも多かれ少なかれ、ある程度の間違いが含まれているかもしれないことを常に頭の隅に置いておくべきです。

 また友人・知人の意見を参考にする人も多いと思いますが、これも同様です。人にもよりますが、大枠でいえばメディア情報に比べれば信頼性は低いとみなすべきでしょう。つまり、世論というのは、素人の意見の総論に過ぎません。

 このように文系の人が認識している科学関連知識とは、間違いも含まれるマスコミ情報やネット情報、あるいは友人・知人などの意見も参考にしながら、主に自分が漠然と抱くイメージにもかなり影響されながら、無意識のうちに脳がいかんなくゲシュタルト効果を発揮して、それっぽい知識を作り上げたものに過ぎません。そんな方法で作り上げたものが、正しいわけがないでしょう。

 もしかすると、文系の人から次のような反論があるかもしれません。「自分は、いろいろ調べて科学用語の意味は結構知ってるぞ。そのほとんどが間違いとは思えない」と。確かにそれはそうかもしれません。でも、科学用語を覚えることが科学知識だという発想自体が、もうすでに文系発想なんです。そんなことよりももっと重要なことがあるわけですが、ほとんどの文系の人は、それが何を指すのかさえわからないでしょう。文系の人は科学の基礎を体系的に学んでいないので、その基礎部分の全体像をまるで知りません。科学用語を覚えることなど、全体から見れば小さなことです。科学用語を知らないよりも知っている方がいいですし、科学に興味を覚える手段や入口としては、まあいいんですが、それは決して本丸ではないということです。

 私自身、こうした文系の人の実態はほとんど知りませんでした。友人・知人にも文系の人は多いわけですが、彼らと科学関連の話なんか普段あまりしないし、理系か文系かさえ知らない人も結構います。彼らにどの程度の科学知識があるか、そもそも興味すらないし、人間どうしのつきあいの上では、正直どうでもいい話です。従って、文系の人の実態に接する機会は、長い間なかったわけですが、ネットの発達で多くの人の意見を読めるようになって認識が一変しました。そこから見えてきたのは、世間一般(=主に文系)の人の科学関連知識が、かなり劣悪なレベルだということでした。私の友人・知人のみなさんは、さすがにここまでレベルは低くないと思いますが、まさに衝撃でした。おそらく私と同じように感じた理系の人は多いと思います。この状況を見れば、「文系の人が認識している科学関連知識の95%は間違い」くらいのことは、いわざるを得ません。



 




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