理系の人が認識している
科学関連知識の60%は間違い






 こんなことを書くと、「おまえは、そんなに偉そうなことをいえるほどに科学に精通しているのか」とお叱りを受けそうですが、私がその答えに行き当たったのは、あなたが考えていることとは真逆ですね。

 どういうことか説明しましょう。確かに私は理系の大学を出てますので、世間一般の人と比較すれば、科学知識はある方だと思いますが、それでも知識があるのは限られた分野だけです。例えば、地質学とか物理学とか…自分の専門分野と直接関係がない分野の知識は、ほとんどありません。それでも文系の人よりかは幾分マシでしょうが、これは私に限ったことではなく、理系のほぼすべての人にも共通していえることだと思うのです。物理学を専攻した人は、確かに物理学には詳しいでしょう。でも、まず間違いなく生物学のことはほとんど知らないはずです。

 理系の人でも文系の人と同じく、専門外の分野に関しては、わずかな予備知識に自分が漠然と抱くイメージを加えて答えを出すことも多いと考えられるわけですが、イメージゆえに出した答えが間違っている可能性が高いことになります。もちろん個人差はあるでしょうが、理系の人が科学関連の全分野に関して認識している全知識の平均正解率は、意外とそれほど高くないだろうと私は見ています。ただ、そうであっても文系の人よりも正解率が高いだろうことは疑いの余地はないですけどね。

 理系の人は、自分は科学に強い…と自負していることも多いと思います。しかし、科学の全分野にオールマイティーの人がいるはずもなく、より正確にいえば、ほとんどの人は「自分の専門分野の知識」と「科学の基礎知識」しか持っていません。ここでいう「科学の基礎知識」とは、科学用語を知ってる…みたいな話ではなく、また機会があれば別途説明しますが、文系の人がほぼ共通して見落としがちな部分です。

 また、例えば物理学を専攻した人が、物理学全般すべての知識に精通しているはずもなく、より専門性の高い内容、あるいは難度の高い内容になると、知識の認識率・正解率も低下するのは必須と思われます。つまり、たとえ自分の専門分野であっても、基礎知識ならともかく、そうでなければ知らないことや間違いもあり得ることになります。
 いくら大学で物理学を専攻した人であっても、大学在籍時、専門分野の試験で毎回、満点だったわけでもないでしょう。間違った設問に関する知識をすべてきっちりと復習し直すことでもしていない限り、やっぱり今も認識を訂正できていない可能性もあるのでは?

 私の専門は、応用微生物学ですが、正直、最新の知見は、ほとんど知りませんし、大学生当時は理解していた知識も、さすがに今はスッカラカンです。私が今でも知っているのは、科学の基礎知識とその分野の基礎知識だけで、大学卒業後に関心がある植物のことなどは、いろいろ調べたりしていますので、むしろ今は専門外の知識の方が多いかもしれません。
 ただ、そんな状況であっても文系の人が発する科学関連の発言に間違いがあった場合にそれが間違いだということは割と容易に判断できます。それが理系大学を出た意味のひとつでしょうね。決して大学で4年間勉強してきたことは無駄ではなかったことになります。このことは私自身も比較的最近になって、ハタと気づいた点です。

 このようにいくら理系大学を出ていても、理系の人にもバイアスがかかる可能性があることをご理解いただけるのではないでしょうか。「理系の人が認識している科学関連知識の60%は間違い」とは、そういう観点から編み出した答えです。ただ「60%」という数字に根拠はありません。あくまで私の体感的な印象に過ぎず、もしかすると30%、50%、あるいは70%かもしれません。記事の内容をわかりやすくするために便宜上設定した適当な数字であることはお断りしておきます。

 理系の人は、「自分は理系で、科学に詳しい」と思いがちなわけですが、それでもバイアスをゼロにするのは不可能という事実に意外と気づいていません。

 STAP細胞が話題になっていた時、文系の人はもちろん理系の人からもさまざまな発言がありました。そうした数多くの意見を読んだところ、いかにも専門ぽく聞こえる物理系大学出身者の発言の中に間違った認識に基づくものがあるのに気づきました。それは、おそらく生物系、特に実験室で細胞や微生物を扱ったことがある人であれば、ちょっと陥らないだろうと思われるバイアスでした。似たようなことは時々あり、「いくら理系でも専門外だと間違うことが割とある」と感じることも多いです。つまりご本人がいくら「自分は科学に詳しい」と自負していたとしても、別分野に関わることだと割とバイアスがかかる余地があるということです。おそらくそれは専門家でもゼロではないでしょう。もちろん「私は例外」というつもりはまったくありません。



 




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