Nature

私のこれまでの編集体験で感じたことなどを好き勝手に書いたものです。

植物記
<<前のページ | 次のページ>>
読者からのクレームについて U
 〜登山ガイド記事の常識を知れ〜


 さて、ひき続き読者からのクレームについて意見を述べたい。前項Tでひとつ目のクレームの例を紹介したが、ふたつ目は次のようなものだった。私がある雑誌に書いたハイキングコースの記事を見て出かけたという。ところが実際にコースを歩き始めてみると想像以上に険しい道。しかしコース終点にある滝はぜひ見たいと「意地で」滝まで歩いたそうだ。無事下山したが、山麓の喫茶店でその話をすると、あそこは厳しい場所で、それなりの装備が必要だといわれ、翌日、同行者は(足が痛くて)動けなくなってしまったという。記事には風景の美しさばかりが強調され、そんなに険しい場所だとか装備が必要とか書いていなかった、もう少し親切な一文がほしかった、というもの。
 私はそれを読んで、登山やハイキングをしたことがない人にありがちな勘違いと感じた。前項でも指摘したが「険しい」「険しくない」というのは主観でしかない。彼らはこのコースを険しいと感じたようだが、私が実際に歩いてみたとき特別に険しいとは、まったく感じなかった。もし誰かひとりでも険しいと感じたコースには必ず「険しい」と書くべきなのであれば、かなりの割合のコースが険しいことになってしまう。確かに子供でも歩ける家族連れ向きのコースとは思わなかったので、ひとつ上の「一般向き」のレベルに設定したのだ。そもそも私はハイキングコースの材料は無数に持っている。材料がなければ自分の都合で険しいコースでも無理して紹介するという人がいても不思議ではないが、少なくとも控えの材料を多数もっている私の場合は無理なコースを無理して紹介する必要はまったくない。その雑誌の読者層をも考慮して紹介に問題はないと判断したから編集部にも提案したのだ。事実、そのコースは、ほかのハイキング雑誌などでも何度も紹介されているコースなのだ。喫茶店の人がいう「装備」とはそもそも何のことを指すのかまったく不明だが、ひょっとしてハイキング装備すらなしに歩いたということではないのか、という気すらしてくる。つまりドライブの途中にタウンシューズで歩き始めた、という具合に。まぁ、それなら確かに(ハイキングの)装備も必要なわけだし、翌日足が痛くて歩けなくなったとしても不思議ではないのだが、そんなこと説明がなければ知らなかったという方が無知すぎる。
 よく考えてほしい。そもそも翌日に同行者が動けなくなったのは、詳しく説明をしなかった私の記事が原因ではない。私の記事には「歩き始めたら、たとえ険しいと感じても何としても最後まで歩き通してください」なんて書いてあったわけじゃない。万一そんなことを書いても、それに従う人は誰もいないだろう。「険しい」と感じたのなら無理せずにその時点で引き返せばいいだけのことだ。それを「意地で」最後まで歩いた結果、同行者が翌日動けなくなったといって、それを記事のせいにするなよ、といいたい。
 何か問題が発生したとき、自分の方に何か足らない点があるのではないか、ということに考えを巡らせもせず、すぐに他人のせいにするというのは精神的に未熟な人間のすることだ。同じように山で事故が発生した時に自分たちの無謀な行為は棚に上げて地元行政などに責任転嫁をする人がたまにいるが、そんな人はそもそも山に来ないでほしい。地元にとっても迷惑なだけなのだ。今回のクレームの場合は、一応丁寧な文面だったので、まだ許せるのだが。(記事Vに続く)
 
<<前のページ | 次のページ>>